アートと身体性

優れたアーティストやクリエイターは、対象の特徴を的確にキャッチし、自らの身体性を持って解釈し、見る側に訴えかけます。

時にそれは、見る側の「身体性」を変えてしまい、以前のような感覚へは戻れなくなってしまうような、不可逆的な反応を引き起こす事もあります。

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日本のアーティスト、こと浮世絵師は、このような身体性が特に優れているアーティストです。

浮世絵師、歌川広重は代表作『東海道五十三次』(天保四・1833年)にて三つの宿場に雨を降らせています。

雨が降る様子を「線」で表現したのは、人類史において歌川が初めてでした。その作品以降、かのゴッホやゴーギャンといった著名な画家が魅了され、世界中の作家がこの表現を模写します。雨は線で書くことが通説となったのです。

歌川にはもともと雨が線で見えていたのかもしれません。
歌川のアートは人々の身体感覚を刺激し、雨が線で見える「目」へと変えてしまいます。

身体性をくすぐるアート作品

身体性をデフォルメした絵と対峙すると、人は無意識に自身の身体性と照らし合わせます。
自身の身体において肩がここまで動くという身体感覚が無ければ、絵を見てショックを受ける事もあるでしょう。

あるいは、理解に苦しむ場合は一種の不快感を感じ、気持ち悪い、ありえないと否定したり、許容を拒む方もいるかもしれません。
このような自身の常識、固定概念を破壊するような作品によって、身体感覚が変容することはありえます。

元の身体へ引き返せなくなるような、そんな身体体験。これまでその人が持っていた「常識」を破壊し、再構築する。

優れたアートには、このような機能もあるのです。