口腔灼熱症候群

症例 50代女性 三叉神経痛(舌痛症)

患者

50代前半 女性



主訴

舌・口腔・歯・顎関節・外耳など(全て左側)の痛み


美容鍼とコリの治療で、定期的に当院へ通ってくださっている患者さんです。もともと左の強い肩こりがあり、ご自分でもかなりグリグリほぐされているとの事で、その部分だけ別の人の身体のようになっていました…。右の肩甲骨まわりの緊張も抜けにくく、そこから派生する首コリもあります。自覚する程度のかみしめもあり、噛み合わせについては歯科医からも指摘されていたこと、それに加えて左肩と右肩甲骨周りの強い緊張から、頭痛もありました。

定期的に通ってくださっていたこともあり、以前のような強い症状もなく安定されていましたが、突如として謎の左側舌の痛みが発生。
舌を噛んだ時のような痛みがあり、体勢や口の動きで激痛を伴います。
だんだんと悪化し、歯や口腔内、左顎関節周囲まで痛みが放散していました。
病院でも歯科医院でも、検査の結果は異常無し。口腔カンジダやドライマウスなども無し。
可能性として三叉神経痛が挙げられる程度で、セルフマッサージを励行されたそうです。歯科医からは、歯からきている可能性もあるので、5本抜きましょうと提案もあったそうです。こわい。

ご自身でも調べて、鍼灸も効くのでは、とご相談を頂きました。


まず、口腔内に決定的な原因、つまり炎症などがないにも関わらず、痛みがある症状を総じて舌痛症といいます。
同じような定義の病状として、口腔灼熱症候群(バーニングマウス症候群)がありますが、ここでは総じて舌痛症と呼ぶことにします。
50-70代の女性に多い疾患で、今回は概ね症状も当てはまることから、この線で治療方針をとることにします。

施術

三叉神経には第一枝(眼神経)領域、第二枝(上顎神経)領域、第三枝(下顎神経)領域がありますが、今回は主に第三枝に痛みがあります。圧痛は強く、のけぞるほど。耳の近く、顎関節付近を触れるだけでも舌まで痛みがあります。
強い刺激はできないため、デルマトーム(皮膚分節知覚帯)に沿って切皮程度でアプローチを行いました。
同じく左側の頭部、首と肩のかたさ(痛みのためにかばっているようです)へも1-2cm程度刺入し、電気パルスを実施。痛みを抑えるために、鍼の麻酔効果を期待します。

2週〜1ヶ月に一度のペースで来院いただき、都度施術後の変化を伺います。初期はできるだけ間を詰めて来院いただけるように励行。ある程度の刺激が許容できるようになると、さらに組織の奥へ、奥へ、と治療を進めました。方針の大きな変換も必要なく、三叉神経上へのアプローチ、首肩頭部をゆるめることをメインに実施しています。下顎骨の内側にある内外側翼突筋も緊張が強く(舌の痛みから余計に力が入ったのだと思います)ここもゆるめるようにします。

結果

ちょうど3ヶ月目の今日、5回目の治療へお越しいただきましたが、かなり軽快されていました。前回の治療(4回目)の後、鍼の後のだるさなどが出たのち、症状の軽快が加速したようです。同じタイミングで子猫を家族に向かい入れたとの事で、癒し効果も少なからずあると思います。猫はかわいいですから。
何より患者の笑顔が弾けるようで、痛みが強かった時に比べると雲泥の差です。ここまで来ると、よっぽど日常で大きな変化がない限り、このまま軽快していく事がほとんどです。

考察

舌から放散する痛みがあり、その原因が定かではない場合、「舌痛症」や「バーニングマウス症候群」と診断されます。どちらも目に見えて異常がないため、医師からは三叉神経の治療を進められることになりますが、薬物治療がメインになるようです。
患者がもともと首肩のコリや頭痛、かみしめがあったことから、何らか日常での心理的・身体的ストレスによって発症したのではないかと推察しました。

何よりこの病の怖いところは、寝ても覚めても、食事の楽しみさえも奪う痛みがあるところです。原因もはっきりしないため、強い不安と孤独が罹患者を襲います。そこからうつなどのメンタル疾患へ移行する方も多く、同時にそこへアプローチする事が重要だと考えます。